こんにちは!KDDIアイレットの渡邉です。
幕張メッセで開催された AWS Summit Japan 2026 に参加してきました。
今年のテーマを一言で言うなら「Agentic AI が実証フェーズに入った年」。
生成 AI を「使ってみた」と語る段階はもう完全に過ぎていて、各社が “自分たちの組織にどう組み込み、どう統制し、どこまで任せるか” を本気で語り始めていました。
その熱量が、会場全体に満ちていたのが印象的です。
この記事では、初日(6/25)に聴いたセッションのうち、特に刺さった3本を取り上げます。
AWS が示す新しい働き方の AI(Amazon Quick)、それを全社規模で実装したソニーグループ、そして開発の現場に AI 駆動開発を持ち込んだトランスコスモス。
プロダクト・実装・現場という3つのレイヤーから「エージェント」が語られたこの並びが、結果的に今年のサミットの縮図になっていたように思います。
Anthropic ブースで NRI が話していた「エンタープライズでの Claude 活用」も、cloudpack 目線で見逃せない内容だったので最後に足しました。
ちなみに会場の雰囲気ですが、どのセッションも開始10分前には立ち見が出る満員ぶり。
特にソニーとトランスコスモスは、スライドが切り替わるたびに会場のあちこちでスマホのシャッターが一斉に上がっていて、「これは持って帰りたい」という参加者の本気度がビシビシ伝わってきました。
1. あなたの新しいエージェンティックなチームメイト、Amazon Quick を知ろう [AIM202]
登壇は AWS ジャパンの井形 健太郎さん。テーマは、AWS が打ち出す業務向け AI アシスタントAmazon Quickです。

「ツール」ではなく「チームメイト」という打ち出し方
タイトルの “チームメイト” という言葉が、そのまま Amazon Quick の思想を表していました。
単発の質問に答えるチャットボットではなく、自分の業務文脈を理解して、調査・分析・自動化・アプリ化まで一気通貫で伴走してくれる存在。そういう設計になっている、という説明が刺さりました。
機能群もその思想にそって整理されています。
- Spaces:チームやプロジェクト単位で文脈・ナレッジを共有する作業空間
- カスタム AI エージェント:業務に合わせて振る舞いを定義できる専用エージェント
- Quick Research:複数ソースを横断して深掘りするディープリサーチ機能
- QuickSight:おなじみの BI を AI ネイティブに刷新したダッシュボード/分析
- QuickFlows / Quick Automate:定型業務の自動化
- Quick Apps:ノーコードで業務アプリを生成
- ドキュメント生成:調査・分析結果をそのまま成果物へ
ブラウザ・モバイル・拡張機能・デスクトップアプリと、マルチデバイスで使える点も強調されていました。
セキュリティを正面から語ったのが好印象
個人的に一番刺さったのは、エンタープライズ向けのセキュリティを正面から語っていたところ。
SPICE のブロック暗号化、データレジデンシー、FedRAMP / HIPAA / PCI DSS / SOC / ISO といった各種コンプライアンス対応。
「AI を業務に入れたいけど、データガバナンスが心配」という多くの企業の本音に、最初から答えを用意している構成でした。
cloudpack としてお客様に提案する立場で見ても、「現場が使いたくなる便利さ」と「情シスが許可できる堅牢さ」を両立させようとしている設計思想は、提案の説得力に直結すると感じます。
2. ソニーグループにおける Agentic AI 基盤の進化 [AIM224]
続いては、ソニーグループの事例。
登壇は大場さん(AI アクセラレーション部門長)と平野さん(シニアアーキテクト)。
「人を力づけ、ビジネスを強化する AI」を、数字で裏付ける
ソニーグループの AI 戦略は “AI for empowering people and augmenting business”
ビジョンだけなら他社でも聞きます。ソニーが違ったのは、それを実装と数字でガッチリ裏付けていたことでした。

全社基盤の Enterprise LLM(ELLM)は、グループ約300社・アクティブユーザー66,000名以上・1日あたり推論リクエスト15万件という稼働実績。
これだけの規模を本番で回しているという事実だけで、会場の空気が変わったのを感じました。
推進体制も巧みです。
AI Transformation(トップダウン)と AI Democratization(ボトムアップ)の両輪で進めていて、400件以上の PoC、100件以上の本番導入。
本社14部門で約1,500業務を棚卸しして400の施策に落とし込む——「とりあえず触る」ではなく、業務の解像度まで降りて投資判断している点に凄みがありました。

AGT(Agentic AI Platform)— ライフサイクルで AI を回す
セッションの核は、エージェントのライフサイクルを回す基盤「Agentic AI Platform(AGT Platform)」。
Develop → Catalog → Run → Observe → Evaluate のループで、作って終わりにせず継続的に改善していく設計です。
デモは3本立てで実演されました。
- Demo 1 / Catalog(AI Resource Catalog):AgentCore Identity・Registry・Gateway を中核に、Register → Inspection → Publish → Discover → Use のフロー。
グループ横断で100%カバー、1,000以上の再利用資産、Audit-ready なガバナンス。「一度作れば全社で使える」を仕組み化していました。 - Demo 2 / Run(Execute Shared AI Agent):Secure Sandbox(Claude Code / Codex)+ AgentCore Runtime / Identity の構成で99.9%の可用性。
ER Agent、STEP Agent、Custom Deep Research、Cross-border、Treasury、JV Agreement、Invoice Process、Export Control……実務に直結したエージェントがずらりと並ぶ画面が圧巻でした。 - Demo 3 / Observe(AI End to End Observability):CloudWatch + AgentCore Observability + Datadog + Eval。Aggregate → Observe → Evaluate → Improve で、トークン消費・コストまでリアルタイムに可視化。
「動いているものは全部見える」状態を作り込んでいました。
そして Agentic AI のスケール、あらゆる AI Agent を束ねるハブ機能、クロスプラットフォームのオブザーバビリティへの期待が語られました。
所感
このセッションで強く感じたのは、「エージェントは作るより運用が難しい」という現実に、ソニーが正面から向き合っていることです。
カタログで再利用を促し、ランタイムで安定稼働させ、オブザーバビリティでコストと挙動を監視する。
AWS のマネージドサービス(AgentCore 群、Bedrock)に乗せつつ、自社の運用思想を上に被せる。
この設計は、規模を問わず多くの企業が参考にできる「お手本」だと思いました。
3. AI 駆動開発 × 開発標準化で実現するエンタープライズ向けシステム開発の今と未来 [AIM310]
初日で個人的に一番会場が沸いたのが、このセッション。
登壇はトランスコスモス株式会社 上席常務執行役員 エンジニアリング統括本部長の所 年雄さんです。
Vibe Coding の衝撃と、その限界
話は 2025年2月の Andrej Karpathy さん(OpenAI 創設メンバーの一人)のポスト——いわゆる「Vibe Coding(バイブコーディング)」から始まりました。
「その場のノリで、AI と対話しながら一人でシステムを組み上げる」スタイルが一気に広まった、という導入です。

そして、その破壊力を示す数字。
React / Node / TypeScript + AWS サーバーレス構成の Todo アプリ開発を題材に、想定15.5人日 → 2.0人日(約87%削減)という社内検証結果。
ただ、所さんはここで冷静に “限界” を提示します。
「Vibes のノリのままだと、大規模開発には使えない」。
手戻り、品質のばらつき、外部 LLM 依存による完遂困難、生成コードのブラックボックス化と著作権・脆弱性リスク。
個人の生産性は跳ね上がっても、それをそのまま組織のエンタープライズ開発に持ち込めるわけではない、と。
だからこそ「組織的に AI 駆動開発を利用するスキームを定義する必要がある」。これが問題提起でした。
その答えが「Waterfall Boost」
トランスコスモスが出した答えが、Vibes のノリを取り除いて企業ユースに耐える AI 駆動開発環境「Waterfall Boost」です。
アジャイル偏重への揺り戻しではありません。ウォーターフォールの品質担保の良さを活かしつつ、各工程を AI で圧縮する——この発想が新鮮でした。

中核は3種類のエージェント群です。
- Procedural Agent(AI が開発をリード):要件定義〜保守運用までの7フェーズで実行タスクと成果物を理解し、人間をリードする。
「人の怠けを許さない」と銘打ち、設計の省略や抜け漏れを問い返しで防ぐ。
各フェーズで要件定義書/基本設計書・ADR/詳細設計書/実装コード・Pull Request/テスト結果・品質レポート/リリースノート/運用ドキュメントを生成。 - QA Agent(AI が品質を担保):マルチ LLM 構成の「七賢者」= 7人のペルソナ AI が、上流ドキュメントを7つの観点からチェック。
スコアリングで合格点に満たなければ次工程に進めない品質ゲートとして機能。
社内開発の9割以上で適用済みとのこと。 - Coding Agent(AI が開発標準化を推進):ガードレール(ナレッジベース)に沿ってコードを生成・整備し、自社ポリシー準拠と既存資産の再利用を促進。
「エンジニアに意識をさせない開発標準化」を実現。
そして全エージェントが参照するのが Agent Knowledge Base。
IDE(kiro / VSCode / Eclipse / IntelliJ IDEA + Claude Code / GitHub Copilot)から MCP 経由で接続し、Cognito × GitHub 認証で GitHub Enterprise 利用者に限定した閉域運用。
ナレッジベースは Amazon Bedrock と Amazon S3 Vectors・Index 構成で、Bedrock AgentCore Gateway 経由で S3 上の開発ナレッジや標準規約を参照します。
ここは AWS プロフェッショナルサービスの支援範囲として明示されていました。
エンジニアが過去の知財を意識的に検索しなくても、MCP 経由で自然に必要なナレッジが効いてくる、という設計です。
効果の数字と、これから
工数削減効果も実績ベースで提示されました。
従来開発3,680h に対し、Waterfall Boost では最小1,802h(51.02%削減)〜最大2,548h(30.76%削減)。
特に Phase 4(反復開発・実装)で55〜75%という大きな削減が出ているのが特徴的でした。
ミドルクラス(3,000〜4,000万円規模)の案件で 30〜50%削減が現実的な目安、という生々しい数字も。
さらに、コンポーザブルアーキテクチャ(マイクロサービス)への再挑戦、クライアントの内製チームや SIer へ Waterfall Boost 環境と FDE(Forward Deployed Engineer)の常駐をセットで提供する展開。
そして保守運用までを1システムあたり5〜6体のエージェントで担う「完全自律型システム開発 AI エージェント」への挑戦が語られ、2026年夏以降の実装・事例公開が予告されました。
所感
「これからのエンジニア(人間)は、クライアントが作りたいシステムの情報を聞いてくる係」。
この言葉が、強く印象に残りました。
AI に任せられる作業を見極め、人間はレビュー・承認・判断と、顧客との対話に集中する。
AI 駆動開発を “個人の魔法” から “組織の仕組み” へ昇華させたこの事例は、まさに我々 SIer / クラウドインテグレーターが次に向き合うテーマそのものでした。
エンタープライズにおける Claude 活用 — NRI のソリューション事例紹介 [Anthropic ブース]
セッションの合間に立ち寄った Anthropic ブースのミニセッションが、これがまた実務的で面白い内容でした。
登壇は株式会社野村総合研究所(NRI)AX イノベーションセンター AI ソリューション推進部 シニアアソシエイトの飯倉 陸さん。
テーマは「エンタープライズにおける Claude 活用」です。
NRI が日本国内初の Anthropic 認定リセラーに
まず語られたのが、NRI と Anthropic のパートナーシップ拡大。
2025年11月に日本国内初の「Amazon Bedrock 向け Anthropic 認定リセラー」に選定、続いて 2026年2月には Anthropic Japan とのパートナーシップ拡大と Claude for Enterprise の自社導入を発表——と、立て続けに関係を深めているとのこと。
Anthropic 側は NRI のコンサル × ソリューションの力(業界知識・コンサルティング力・システム開発力)を高く評価している、という関係性でした。
AX に必要な「3つの変革」と「柔軟で堅牢な AI 基盤」
NRI の主張は明快です。
これからの AX(AI Transformation)には、経営変革・業務変革・システム変革の「3つの変革」を、「柔軟で堅牢な AI 基盤」の上で、経営起点で全体整合させながら進めることが肝要、と。
「人の業務を AI が支援・代替する」段階から、「AI と共創できる業務」「AI と連携できるシステム」へ作り変えていく。AI の “圧倒的な能力” を活かせる企業が勝ち組になる、という煽りも効いていました。
個人的に刺さった「Claude の2つの利用形態」
cloudpack の実務に直結する話として、Claude の利用形態を整理した一枚が特に有益でした。
Claude には、SaaS 製品としての Claude アプリ(ブラウザ/デスクトップ)と、クラウドから API 利用する Claude モデル(Amazon Bedrock など)の2系統があります。
NRI の再販は後者(Bedrock 経由)。
両者の比較で響いたのは次の点でした。
- 利用リージョン:Claude for Enterprise(C4E)はグローバル / US 限定なのに対し、Bedrock 経由なら日本リージョン(東京・大阪)限定の推論エンドポイントが使える。
- データコントロール:Bedrock 経由ではデータが顧客の AWS 環境内に留まり、AWS も Anthropic も参照できない。
- 使えるサービス:API 経由では Claude Code / Claude for Excel / Claude for PowerPoint などが活用可能。

金融や保険など「推論データを国内に留めたい」要件の強いお客様に対して、Bedrock 経由の Claude が現実的な答えになる。
この整理は実用的だと感じました。
2つの PoC 事例
- 大手生命保険会社:RAG チャットボットによるヘルプデスク効率化。窓口販売員からの問い合わせがヘルプデスクに殺到する負荷を、営業マニュアルを検索対象とする RAG 機能付き AI エージェントで肩代わり。
顧客の AWS 環境内(東京リージョン VPC)に構築し、3ヶ月以上のトライアルとして提供。
将来的にはヘルプデスク業務そのものの AI エージェント代替を目指す。 - 大手通信事業会社:社内マニュアルの “AI リーダブル化”。「社内マニュアルが AI の読みやすい形式に変換できていないのでは」という仮説に対し、Claude のマルチモーダル機能で Word / Excel / PowerPoint / PDF を画像解析し、図表・グラフごと Markdown に高精度変換するツールを開発。
RAG のデータソース品質を底上げし、検索精度の改善につなげる狙い。
所感
AWS のメインセッションが「プロダクトとビジョン」を語る場だとすれば、ブースのこのセッションは「で、結局どう実装して、どこにデータを置くのか」という一番泥臭くて大事なところに踏み込んでいました。
Claude を Bedrock 経由で国内リージョンに閉じて使う。これはまさに cloudpack がお客様に提案する際の王道パターンで、NRI の事例は良い裏付けになります。
まとめ — プロダクト・実装・現場が一本につながった一日
初日の4セッションを振り返ると、見事に役割分担ができていました。
- AIM202(Amazon Quick):AWS が示す、エージェント時代の “働き方” のプロダクト
- AIM224(ソニー):それを全社規模で実装・運用する “プラットフォーム” のお手本
- AIM310(トランスコスモス):開発の現場に AI を組み込み標準化する “メソッド”
- ブースセッション(NRI):それを “どう実装し、データをどこに置くか” という現実解
共通して流れていたのは、「単発の生成 AI 活用」から「ライフサイクル全体をエージェントで回し、統制する」へ、という潮流です。
カタログ/ランタイム/オブザーバビリティ(ソニー)、Procedural / QA / Coding の三層(トランスコスモス)。どちらも “作って終わり” ではなく “運用し続ける” ことを前提に設計されていました。
2日目も気になるセッションが目白押しです!
近日中に公開予定のためお楽しみに!