テクノロジーの進化は、とどまることを知らない。
システム開発会社として20年前に創業し、日本でもいち早くクラウドサービスに着目したアイレットは、生成 AI をはじめとする次なるトレンドにも果敢に挑み始めている。
同社代表取締役会長の齋藤 将平氏と、親会社である KDDI代表取締役社長 CEO の髙橋 誠氏が、
アイレットとテクノロジーのこれまでの20年とこれからの20年について語り合った。
大手 SIer の市場に風穴を開けたい
今や、その存在がなければ「世の中が動かない」と言っても過言ではないほど、必要不可欠な ICT インフラとして定着したクラウドサービス。だが、そのサービスが登場して間もない2000年代後半ごろは、「なぜ、サーバーやデータベースを社外に置くのか?」「セキュリティに問題はないのか?」と、疑心暗鬼の嵐が吹き荒れていた。
過去20年間のテクノロジーの進化を目の当たりにしてきたビジネスパーソンは、クラウドという新たな“黒船”が当初、いかに世の中から拒絶されてきたのかを鮮明に記憶にしていることだろう。
だが、そうした忌避感や低評価に疑問を呈し、いち早くクラウドの導入・運用を支援するフルマネージドサービスを提供して急成長を遂げた会社がある。それがアイレットだ。
現会長である齋藤 将平氏がアイレットを創業したのは2003年。もともとは、Web システムを開発する小規模な SIer(システムインテグレーター)であった。
プログラマー出身の齋藤氏が当時、発展の兆しを見せていた Web システムに着目したのは、従来のシステムに比べて格段に開発スピードが速く、スピーディーにリリースできることに魅力を感じたからだという。「この速さがあれば、新興の開発ベンチャーでも大手 SIer の市場に風穴を開けられるのではないかと考えた」と齋藤氏は振り返る。
「大手 SIer を凌駕する存在となりたい」――。齋藤氏の強烈な成長志向は、アイレットの20年にわたる急速な発展の原動力となった。
トレンドに先んじてクラウド関連サービスを開始
アイレットの成長力は、「常に上を目指したい」という齋藤氏の強い意思と、そのために最新のテクノロジーを積極的に採り入れるチャレンジ精神の掛け算によって促進される。創業当初、まだ普及して間もない、海のものとも山のものともつかない Web システムに限られた経営資源を集中投下したのは、その表れと言えるだろう。
さらに2009年、アイレットは新たなテクノロジーとの出会いによって、次なる成長のエンジンを手に入れる。それがクラウドサービスだった。
「事業の発展とともに、海外からの仕事を受けることになったが、サーバーやデータベースを海外に置くのは契約が面倒で、保守・運用にも手間がかかる。何か良い方法はないかと探したところ、アマゾン ウェブ サービス(AWS)と出会った」(齋藤氏)
使いたいときに、使いたい分だけのサーバーやデータベースを契約し、不要になればすぐに解約できる。フレキシブルでコストパフォーマンスも良いクラウドサービスの存在を知り、「このサービスは、必ず日本にも来る」と齋藤氏は確信した。
トレンドに先んじるべく、齋藤氏は迅速に準備を進めた。2010年4月には、クラウドの導入設計、保守・運用を支援するフルマネージドサービスである「cloudpack(クラウドパック)」を提供開始。さらに2011年1月には、齋藤氏の“予言”通りに日本に上陸した、AWS のソリューションプロバイダーに登録している。
新しいサービスに対する市場の拒絶反応は想像以上に大きかったが、齋藤氏は、「これほど便利なサービスが普及しないはずはない」と自信を持っていた。市場の不安や忌避感を払拭するため、第三者による国際的なセキュリティ認証への準拠および取得、日本企業にも利用しやすい請求書支払いの仕組みなどを積極的に投入。その結果、日本でもようやくクラウドが“市民権”を獲得したころには、アイレットは既に国内トップクラスのクラウドサービスプロバイダーに成長を遂げていた。
「2013年6月、国内初となる AWS の APN(AWS パートナーネットワーク)プレミアコンサルティングパートナーに認定され、2015年には『cloudpack』の契約社数が約500社に達した」(齋藤氏)
さらなる成長を目指して KDDI の子会社に
「大手 SIer の市場に風穴を開ける」という目標に手の届くところまで来ていたアイレットの成長ストーリーは、2017年2月、新しい局面を迎える。KDDI の傘下に入り、同社の子会社となったのだ。その経緯について、齋藤氏は次のように明かす。
「事業規模をさらに拡大させるには、株式上場という選択肢もあった。しかし、クラウドだけでは、どんなにサービスの改善を図っても成長に限界がある。そこで、クラウドに不可欠な通信サービスと融合することで、成長の掛け算を加速させたいと考えた」
一方、アイレットを受け入れた KDDI は、クラウドサービスや SI(システムインテグレーション)といった新しい事業領域を切り拓く機会が得られることを期待した。
KDDI の代表取締役社長 CEO である髙橋 誠氏はこう振り返る。
「当時、新規事業開発を担当していた私の元には、数多くのスタートアップやベンチャー企業から、出資や資本提携のオファーが寄せられていた。中でも市場が大きく広がっていた AWS などクラウドサービスは、今後とくに有望な事業の一つではないかと考え、アイレットへの出資を決定した」
アジャイル開発のノウハウを KDDI に移転
KDDI の傘下に入ったことで、アイレットの認知度は格段に上がり、「cloudpack」の契約社数はさらに増加する。KDDI の子会社となってからの6年間で、社員数は約10倍の千人規模まで増加。その多くがエンジニアだ(エンジニアは全従業員の約8割を占める)。「KDDI グループの一員となったことで、優秀な社員を数多く獲得できるようになったのは非常に大きな効果」と齋藤氏は語る。
そもそもアイレットは、「社員の成長こそが、会社の成長につながる」(齋藤氏)という考えの下、人財を大切に育て上げることに定評がある。社員エンゲージメントも重視しており、優秀な人財が集まりやすい環境は整っていたと言える。
それに KDDI のネームバリューが加わったことで、会社の人財基盤が強化され、売上高は500億円規模にまで急成長した。
一方、KDDI にとっては、事業領域が広がっただけでなく、アイレットがクラウドサービスの提供で培ってきたアジャイル開発のノウハウが移転されたことも大きな成果のようだ。
「KDDI では、通信サービスのほかにも生活関連の多種多様なサービスを提供しているが、それらを支えるシステムの開発は、仕様書を作って外部に発注するウォーターフォール型で行っていた。アイレットからアジャイル開発のノウハウを吸収したことで、内製によるスピーディーな開発が実現し、より多くのサービスを早く投入できるという効果が表れている」と髙橋氏は語る。
KDDI からスピンオフした KDDI スマートドローンとアイレットが連携してドローン開発を行うなど、グループ内のベンチャー企業同士が新事業やサービスの開発に取り組む事例も増えているという。髙橋氏は、こうした動きが「KDDI グループ全体のイノベーションに大きな刺激をもたらしてくれるとありがたい」と期待を込める。
既に “体験済みの未来” 生成 AI 関連サービスに注力へ
テクノロジーの進化に終わりはない。KDDI とアイレットは、今後20年の進化をいかに予見し、新たな挑戦に取り組もうとしているのか。
KDDI の髙橋氏は、「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる」という KDDI の長期ビジョン(KDDI VISION 2030)に沿って、「コンシューマだけでなく、法人のお客さま向けのサービスを強化していきたい」と話す。
現在、同社の大半の利益はパーソナル(コンシューマ)だが、法人向けにも様々な新しい体験価値を提供することで、ユーザーの裾野を広げていきたいと考えている。
「そのカギを握るのがクラウド。法人のお客さまがそれぞれのエンドユーザーに提供する価値を高めるため、クラウドをベースにした DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用する動きが広がっている。KDDI はそれを積極的に支援していきたいと思っている」(髙橋氏)
そのためにも KDDI は今後、アイレットとの連携をさらに強化していきたいと考えている。「アイレットは AWS だけでなく、グローバルでスタンダードに利用されている多様なクラウドサービスにいち早く対応している。そのスピード感と、幅広いニーズに対応する柔軟さを採り入れながら、法人のお客さまに新しい価値を提供していきたい」と髙橋氏は構想を明かす。
一方で齋藤氏は、クラウドと通信サービスの融合をさらに深める構想を描いている。
「クラウド上のアプリケーションを利用するのが当たり前になれば、スマートフォンなどの端末は、いずれディスプレイと入力装置の役目しか果たさなくなる。そうなると、端末をクラウドにつなげる通信の役割はますます重要になってくるはず。KDDI との連携を通じて、より快適でセキュアな通信環境の下でクラウドが活用できる世界を実現していきたい」と齋藤氏は語る。
アイレットは、深刻化するエンジニア不足に対応するため、ギグワーカー(インターネット経由で単発の仕事を請け負う就業者)の活用を進めている。今後、定年退職者などをリスキリングし、ギグワーカーとして活躍してもらうことも考えているそうだ。「通信の領域で豊富な経験を持つ方々に活躍の場を提供することで、クラウドと通信の融合がさらに進むのではないかと考えている」と齋藤氏は期待を示す。
新たな技術をいち早く検証・実装できるのがクラウドの特徴である。中でも、今最も注目されている生成 AI のニーズは確実に高まっていくはずだ。髙橋氏は「生成 AI についても、アイレットとの緊密な連携を通じて、新たなニーズに確実に応えていきたい」と語る。
齋藤氏も、「生成 AI は、いずれ当たり前の技術になる」と予見する。
「当初あまり歓迎されなかったクラウドが必要不可欠なサービスになったように、生成 AI も“市民権”を得る時代が必ずやってくる。我々にとっては、既に“体験済みの未来”なので、いち早く生成 AI 関連のサービスに注力し、市場を先取りしていきたい」(齋藤氏)と抱負を語った。
創業20年のアイレットは、早くも次の20年を見据えている。
KDDI株式会社 代表取締役社長 CEO
髙橋 誠氏
1984年京セラ入社。同年第二電電入社。2003年 KDDI 執行役員 ソリューション事業本部コンテンツ本部長兼コンテンツ企画部長、2007年取締役執行役員常務、2010年代表取締役執行役員専務、2016年代表取締役執行役員副社長、2018年4月代表取締役社長(現在に至る)、2023年4月 CEO(現在に至る)。
アイレット株式会社 代表取締役会長
齋藤 将平氏
運送業に就業後、21歳のときにプログラマーになる。2003年10月、千葉県野田市でアイレットを創業し代表取締役社長となる。2020年4月、代表取締役会長に就任(現在に至る)。会長職とともに、現場に重きを置いたサービスやシステムの開発にも取り組む。
アイレット沿革
日経BPの許可により「日経クロステック Active Special 2023年10月20日~11月16日」に掲載された広告を抜粋したものです。
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