アイレット株式会社 クラウドインテグレーション事業部所属の森 柾也です。
Google Cloud Next 2025において、「Deep dive into the latest innovations in AlloyDB: The new way to PostgreSQL」というセッションに参加しました。
セッションでは、AlloyDB の基本的なコンセプトから、具体的な技術的な優位性、そして実際の顧客による導入事例まで、多岐にわたる情報が共有されました。
本記事では、そのセッションの内容をご紹介します。
AlloyDB の基本的なコンセプトと開発目標

AlloyDB は、最高の PostgreSQL を構築するという非常に意欲的な目標を掲げて開発されました。
開発の背景には、多くのユーザーが最高のパフォーマンスと信頼性を PostgreSQL に求めながらも、自己管理に伴う運用負荷や、クラウドネイティブな機能との連携に課題を感じている現状がありました。
AlloyDB は、このような課題を解決するために、Google Cloud の持つ最先端の技術力と、オープンソースである PostgreSQL の持つ柔軟性とコミュニティの活力を融合させることを目指しています。
具体的には、性能、可用性、セキュリティといったエンタープライズグレードの要件を満たしつつ、PostgreSQL との高度な互換性を提供することで、既存の PostgreSQL ユーザーにとってスムーズな移行と利用を可能にしています。
自己管理の PostgreSQL と比較した際の性能と価格優位性

セッションでは、AlloyDB が自己管理の PostgreSQL 比較して、圧倒的な性能とコスト効率を実現していることが強調されました。
- トランザクション処理性能: AlloyDB は、オープンソースの PostgreSQL と比較して 4 倍高いトランザクションスループット を達成
- 分析ワークロード性能: 分析系のワークロードにおいては、AlloyDB は PostgreSQL に対して 最大 100 倍の低レイテンシ性能 を実現しています。これは、AlloyDB エンジンの最適化によるものです。
- 価格性能比: 自己管理の PostgreSQL と比較して 2 倍以上の価格性能を発揮するだけでなく、最新の Arm ベースの Axion プロセッサ上で動作させることで、従来の x86 アーキテクチャと比較して 45% 優れた価格性能を実現しています。
AlloyDB のアーキテクチャ


AlloyDB の高い性能と信頼性を支えるのは、そのコンピュート層とストレージ層を分離した独自のアーキテクチャです。
- 分離されたコンピュート層とストレージ層: コンピュートインスタンス(プライマリ、スタンバイ、リードレプリカ)は、Google の高度な技術に基づいて構築された 高性能なストレージ層に接続されます。この分離により、コンピュートリソースとストレージリソースを独立してスケーリングすることが可能となり、コスト効率と柔軟性が向上します。
- 高速なリードレプリカ: Google の技術を活用したストレージ層により、非常に安価かつ高速なリードレプリカの構築が可能になります。これにより、読み取り負荷の高いワークロードにおいても、高いパフォーマンスを維持できます。
- 高可用性: スタンバイコンピュートインスタンスが用意されており、プライマリインスタンスに障害が発生した場合でも、迅速なフェイルオーバーが可能となり、高可用性を実現します。
実際の顧客による導入事例の紹介
セッションでは、AlloyDB を実際に導入し、その効果を実感している顧客からの事例紹介がありました。
- 金融機関: 規制要件によりデータ保管場所やレイテンシに制約がある中で、AlloyDB の導入によりこれらの課題を克服しました。
- 以前のオンプレミス環境では 1000万を超える顧客アカウントに対応することが困難でしたが、AlloyDB への移行によりスケーラビリティの問題を解決しました。
- また、ネットワーク接続に関する課題も、Google Cloud との緊密な連携により解決され、ビジネス継続性テストも容易になったとのことです。
- AlloyDB への完全移行後には、性能面でも大きな改善を実感していると語られました。
- 公共部門の企業: 大量の MySQL インスタンスを運用しており、複雑な SQL クエリによるレポート作成に長い時間を要していたこの企業は、AlloyDB を試験的に導入した結果、最大 350倍ものクエリ実行速度の向上を達成しました。
- これにより、これまで数十分かかっていたレポート作成が数秒で完了するようになり、業務効率が大幅に向上しました。
- 現在では、MySQL のレプリカを AlloyDB に置き換えることを検討しているとのことです。
- また、AlloyDB と AI を活用して、これまで手作業で数日を要していた複雑なダッシュボードの作成を数時間で完了できるようになった事例も紹介されました。
これらの事例は、AlloyDB が多様な業界の、様々な課題に対して有効なソリューションとなり得ることを示唆しています。
まとめ
今回のセッションを通じて、AlloyDB が単なる PostgreSQL のマネージドサービスではなく、Google Cloud の革新的な技術と PostgreSQL の強みを融合させた、次世代のデータベースサービスであることが明確になりました。
個人的に Google Cloud にて PostgreSQL 互換の DB がリリースされたタイミングはクラウド業界的には少し遅かったように感じていましたが、ある程度使える DB ではなく、世界最高の PostgreSQL をリリースするという高いレベルの目標の中で進められていたと知り、Google が思う正解を世の中に提案する姿勢に感動しました。
圧倒的な性能とコスト効率、そして柔軟な展開オプションを提供する AlloyDB は、クラウドネイティブなアプリケーション開発はもちろん、既存のエンタープライズシステムの刷新においても、強力な選択肢になると思います。
参考: AlloyDB for PostgreSQL: Two years of innovation and industry leadership