はじめに

Oracle AI World Tour Tokyo 2026のラーニングセッション「止められない基幹システム、クラウド移行は可能なのか?企業システムを支えるOCI最新テクノロジー」のレポートをお届けします。
本セッションでは、KDDI株式会社の今 義智氏と日本オラクル株式会社の内田 伸穂氏が登壇し、auサービスを支える基幹システムのOCI移行について紹介しました。大規模な社会インフラを支えるシステムを、どのような考え方でクラウドへ移行し、どのような成果と学びを得たのかを具体的に知ることができるセッションでした。

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セッション概要

セッションの中心にあったのは、au ID / au PAYを支える基幹認証・決済システム のクラウド移行です。このシステムが 3,000万ユーザー、60万QPS を処理する大規模な社会インフラであることが示されていました。単なるリプレイスではなく、将来の成長や変化に耐えられる基盤へどう進化させるか、という観点で移行が語られていたのが印象的でした。

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なぜ移行が必要で、OCIを選択したのか

今氏が強調していたのは、これほど大規模なシステムだからこそ、移行や構成変更の前にまず現状把握が不可欠だという点でした。60万QPSを捌く基盤では、感覚での判断ではなく、現行構成・性能・運用状況を可視化し、どこに課題があるのかを明らかにすることが最初の一歩になる、というメッセージが一貫していました。

オンプレミス基盤側の課題として、システムの肥大化・運用の複雑化、リソース最適化の難しさ、開発アジリティの低下などが整理されていました。止められない基幹システムを今後も成長させていくためには、ゆるやかな改善ではなく、大きな変化が必要だという問題意識が示されていました。

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クラウド選定の評価軸として、登壇では 可用性、性能、移行の容易性、サポート体制 が挙げられていました。そのうえで、OCIは高負荷・大規模ワークロードにおける性能面や、既存資産を踏まえた移行しやすさの面で優位だった一方、他社クラウドはTAMを含むサポートやサービス数、実績・エコシステムの豊富さで高く評価されたことも率直に紹介されていました。

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また、課題解決に向けたOracle Cloudの特性として、高いパフォーマンスと信頼性、透明性とコスト効率に優れた価格 などが、既存課題を解決する要素として整理されていました。単に「OCIが良い」という話ではなく、課題に対してどの特性が効くのかをマッピングしていた点が印象に残りました。

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OCIへの移行アプローチ

このプロジェクトで印象的だったのは、すべてをクラウドへ丸ごと置き換えるのではなく、既存資産とOCIを組み合わせながら最適化していく という方針です。課題に対するアーキテクチャ方針として、クラウド化、アプリケーション構造変更、コンテナ化、オートヒーリング などが整理されていました。目的は、成長を支えるプラットフォームをつくるために、開発アジリティと品質を高める方向へ舵を切ったことがうかがえます。

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また、移行は単年度で終わる話ではなく、約3年にわたる計画として進められていました。2023年の移行前システムから始まり、2025年末のOCIクラウド移行完了、2026年初頭のアプリ構造変革完了、さらに 2026〜27年度のマネージド採用強化 を経て、2028年にクラウド・AIネイティブ化で事業貢献最大化 を目指すロードマップが示されていました。

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移行で得た成果と学び

移行成果として、次の3点が明示されていました。
これらは、クラウド移行が単なる基盤更改ではなく、安定性と即応性の改善にもつながったことを示す成果だと説明されていました。

  • Oracle起因のトラブルが0件
  • ピーク時のDB負荷が50%減
  • イベント対応のためのリソース増強期間が数か月から0か月に短縮

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後半では、クラウド利用に対する代表的な誤解として、以下の4つが挙げられていました。

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そのうえで、特に重要な論点として、クラウドは進化が速いため、現在の設計を固定解とせず、変更容易性を持つことが長期的な最適化につながる という考え方が示されていました。過去の設計ではハードウェアを十分に使い切れていなかったという振り返りもあり、設計思想そのものを見直す必要性が語られていました。

さらに、教訓として掲げられていたのが、「成功には小さな失敗の積み重ねが不可欠」 というメッセージです。大きな失敗を避けながら、小さな失敗を通じて学び、改善を重ねることが、結果として大規模移行の成功につながるという考え方は、とても実践的でした。

Oracleのサポート体制

セッションでは、Oracle側の支援も多層的に紹介されていました。通常のOracle Cloud Supportに加え、重大インシデント時の支援、ビジネス影響の大きい事象への対応、営業・アカウント・デリバリー部門を含む横断支援、さらには移行当日の専用支援体制まで含めて、プロジェクトを支える仕組みが整えられていたことがわかります。

また、OCI利用部門のスキル向上を目的に、OCI QUEST という実践型のトラブルシューティングイベントも紹介されました。単にベンダーサポートに依存するのではなく、社内側でも手を動かして理解を深める仕組みを持つことが、長期運用では重要なのだと感じました。

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さいごに

本セッションを通じて、「止められないシステム」であっても、適切な計画と段階的なアプローチによってクラウド移行は十分に成立し得ることが伝わってきました。特に印象的だったのは、移行をゴールではなく、その先の継続的な進化の出発点として捉えていた点です。

KDDIは2028年に向けてクラウド・AIネイティブ化を掲げており、既存資産を活かしながら段階的に変革を進めていました。すべてを一気に置き換えるのではなく、変更容易性を持つ設計へ寄せていく考え方は、実プロジェクトでも参考になる内容でした。

加えて、トラブル0、DB負荷50%減、リソース増強の即時化といった定量的な成果も示されており、移行の説得力をより高めていました。ミッションクリティカルなシステムのクラウド移行を検討している方にとって、非常に参考になるセッションでした。